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【イベントレポート】サーキュラービジネスデザイン講義第5回「サーキュラーエコノミーとファイナンス」を実施

2025年1月9日

CIRCULAR STARTUP TOKYO」は、サーキュラーエコノミー領域に特化したスタートアップ企業の創業を支援するインキュベーションプログラムです。参加者は、循環型経済に関する多様な講義や専門家からのメンタリング、中間・最終発表などを通して、循環型経済の実現に向けた新たなビジネスモデルの構築や成長を試み、最終的には資金調達や社会的インパクトの創出を目指します。

12月23日には、プログラムの一環であるサーキュラービジネスデザイン講義の第5回、およびサーキュラーエコノミースタートアップ実践の第4回が行われました。講義のテーマは、「サーキュラーエコノミーとファイナンス」。登壇者は、独立系ベンチャーキャピタルのArchetype Ventures合同会社(以下、Archetype Ventures)・パートナーの北原宏和氏、Archetype Ventures合同会社・シニアアソシエイトの中村聡志氏、化学産業に特化した素材のプラットフォームを通してサーキュラーエコノミーを実現しようとするSotas株式会社(以下、Sotas)・代表取締役の吉元裕樹氏です。

前半の講義では、中村氏より、資金調達における基本的な考え方や、サーキュラーエコノミー領域での資金調達において投資家の間で論点になりやすい話題を共有いただきました。さらに、北原氏からは、サーキュラーエコノミー領域のスタートアップを取り巻く資金調達の環境についてお話いただきました。

後半のサーキュラーエコノミーとスタートアップ実践では、吉元氏より、Sotasの事業について、また実際に多額の資金調達を成功させた裏側で行っていたことなどについて、お話いただきました。

本記事では、その一部を抜粋してレポートします。

※サーキュラービジネスデザイン講義について
サーキュラービジネスデザイン講義は全5回の構成となっており、初回は視点をズームアウトしたうえでシステムデザインについて学び、段階的にビジネスデザイン、サービスデザイン、プロダクトデザインと、徐々に視点をズームインさせていきながら、サーキュラービジネスの構築プロセスを掘り下げていきます。

重要なのは、起業の背景と経済的合理性。事業の特性に合った資金調達の方法を見極める

スタートアップ企業が事業の拡大のために通らなければならない道のひとつとして挙げられるのが、資金調達です。Archetype Venturesの中村氏は、スタートアップ企業が資金調達を考える上で最も重要なのは、「自社のビジネスがどれだけの資金を必要とするのかを認識する」ことだと語ります。それは、サーキュラーエコノミー領域のスタートアップでも同じです。

中村氏「ビジネスを大きく2つに分けて考えると、時間をかけて徐々に利益を上げていくものと、初期は赤字を出しながら、後に急激な成長を目指すスタートアップやベンチャーと呼ばれるものがあります。

この2つのビジネスモデルには、事業の特徴や資金需要の大きさに違いがあります。資金需要が大きいビジネスには、例えば宇宙産業やバイオテクノロジーを使った創薬などが挙げられます。一方で、自分たちで製品を作って売るのではなく、依頼を受けて製品を作り、納品するという受託型のビジネスモデルの場合、資金需要が必然的に下がります。

そして、サーキュラーエコノミーと一言で言ってもその領域は非常に幅広く、例えば代替材料の開発やバイオ関連の製品の製造といった設備投資が必要なビジネスにはまとまった資金が必要になりますが、一方でサーキュラーエコノミー関連のコンサルティングや、データのトラッキング、トレーサビリティを手がける事業には、資金需要はそれほど必要ではない場合が多いのです。

このように、事業の特性や資金需要の大きさを見極め、資金調達のアプローチを練っていくことが重要です」

自社の資金需要の把握について説明した図。

Image via Archetype Ventures

そのうえで、サーキュラーエコノミー領域のスタートアップが資金調達において意識すべきことを4点述べました。

中村氏「1つ目は、投資家は起業の背景を非常に重視しているということです。サーキュラーエコノミーのような注目を集める領域において、『なぜこの領域で起業しようと思ったのか』という点は非常に重視されます。この背景には、起業家が最後までやり抜く熱意や情熱があるかどうかを確かめたいという意図があります。

2つ目は、CO2削減などの環境目標は非常に大切ですが、それを支えるビジネスを成立させるための最低限の経済的合理性は必要だということです。ですから、企業がその目標を導入するに足る経済的な合理性を説明できるかどうかが、重要なポイントだと考えています。

3つ目は、競争優位性についてです。ハードウェアを含む研究開発を伴う分野では、技術的な競争優位性が明確に認識されやすいと考えています。一方でトレーサビリティなどの領域においては、サーキュラーエコノミー全般に関する技術的優位性を説明するのが難しいと感じています。

この点をどう説明するかには様々なアプローチがあると思いますが、重要なポイントは、この領域が一社だけでは成し遂げられないということです。したがって、どれだけ早い段階から有力なプレーヤーを巻き込めるかが重要だと思います。この巻き込み力を示すことが、特にこの領域においては重要な要素だと考えています。

最後に、市場の規模についてです。投資家はサーキュラーエコノミー全体の市場規模が非常に大きいことは理解していますが、同時に、目の前のビジネスが取り組もうとしている市場規模がどれくらいであるかをよく見ています。

ですから、実際にどれだけの売上が見込めるのか、何社からどれだけの収益が得られるのか、または何ユーザーからどれだけの収益が得られるのか、といった点──いわゆるSOM(Serviceable Obtainable Market)について合理的に説明でき、かつその規模が相当に大きいことが、株式を出すような投資家にとって重要なポイントだと思います」

中村聡志氏

Archetype Ventures合同会社 シニアアソシエイト 中村聡志氏

文化や感性の違いが大きく影響する領域だからこそ、初めからグローバル展開の視点が必要

続いて、同じくArchetype Venturesの北原氏からは、サーキュラーエコノミー領域のスタートアップが置かれている資金調達環境について解説していただきました。

現状では、サーキュラーエコノミーに特化した資金調達環境を表す指標はありません。しかし、クライメートテックやデジタルの領域から、その規模を類推することはできると北原氏は話します。

北原氏「気候変動関連の投資環境の中で、サーキュラーエコノミーはエネルギーや輸送分野に次いで注目されています。また、投資は主に初期段階のスタートアップに集中しており、まだまだこれからの分野であると言えると思います。

HolonIQが選定した米国市場上場株式のうちサーキュラーエコノミーに該当する銘柄は、S&P 500、NYダウ工業株30種を上回るパフォーマンスを示しています。しかし、国内においてまだサーキュラーエコノミー領域をしっかりと見ていない投資家を説得し信頼を得るためには、魅力的なエクイティストーリーを構築することが重要です。

サーキュラーエコノミーは大きな成長ポテンシャルを秘めていますが、単なる市場規模の期待に留まらず、現実的で効果的な事業構築が成功の鍵となります」

グローバルCEスタートアップの資金調達動向についての図。

Image via Archetype Ventures

それを踏まえたうえで、資金調達の実現においては、グローバルに展開する視点を持つことが重要だと語ります。

北原氏「日本のスタートアップは国内市場にフォーカスしがちで、グローバル展開の視点が不足しがちです。

サーキュラーエコノミー領域では、地域によって消費者の感覚や文化、感性が異なるため、それを踏まえたプロダクトの開発が求められます。ITの分野でも各国の状況に応じた調整が必要ですが、サーキュラーエコノミー領域はそれ以上に文化の影響を受けます。例えば、日本では分別意識が進んでいるため、それを前提にプロダクトを設計すると、海外では期待通りに受け入れられない可能性があります。

ですから、自国以外でも幅広い支持を得られるようなプロダクト設計を行っていくことが必要です。最初は日本で始めたとしても、海外のマーケットの状況を把握し、ある程度グローバルで使うことを前提に事業を考えていく必要があるのです」

北原宏和氏

Archetype Ventures合同会社 パートナー 北原宏和氏

シード調達成功の鍵は、人生の選択を振り返り、起業の理由を明確に語ること

後半は、Sotasの吉元氏より、同社の事業紹介と、資金調達に向けて行うべきことをご自身の経験から語っていただきました。

Sotasは、「地球の長寿命化」をパーパスに、素材の循環性と流動性を最大化する化学業界に特化したデジタルプラットフォームを構築するスタートアップ企業です。非構造化データを構造化し、素材のトレーサビリティと効率的な管理を可能にするサービスを提供することで、地球規模でのサーキュラーエコノミーを実現しようとしています。

Sotasの強みは、600兆円規模にのぼる化学業界の素材データの流通市場に注目し、非効率的なサプライチェーンをデジタル技術で改善しようとしている点にあります。また、SaaS(Software as a Service ※)ソリューションを事業の基盤とすることで、利用企業からのデータを蓄積し、より高度なサービス提供を可能にしています。

※ 「サービスとしてのソフトウェア」の略で、インターネットを通じて提供されるソフトウェアの形態を指す。

Sotasの製品には、「Sotas工程管理」「Sotasデータベース」「Sotas化学調査」があります。(2025年2月時点)

Sotasの製品には、「Sotas工程管理」「Sotasデータベース」「Sotas化学調査」があります。(2025年2月時点)

Sotasは2024年10月に約4.8億円の資金調達を実施しました。吉元氏は、このシード調達に向けて取り組んだこととして、大きく三つのポイントを挙げました。

吉元氏「1つ目は、TAM(Total Addressable Market)・SAM(Serviceable Available Market)・SOM(Serviceable Obtainable Market)を意識し、市場の大きさを見極めることです。どのようなサービスにおいても、市場の大きさは重要です。

2つ目は、『なぜ、今なのか』という点です。なぜ今起業することでその事業がうまくいくのかを突き詰めて考え、プレゼンやピッチの資料にしっかりと盛り込むことで、投資家の見方も変わると思います。

そして3つ目は、なぜ自分が起業したのか、そして人生においてどのような選択をしてきたのかを振り返ることです。私たちも、『なぜ吉元さんは起業したいのか』『これまでの人生でどのような選択をしてきたのか』ということを有名な投資家に聞かれました。他の起業家も同様に、この点を重視していると感じています。

ですから、なぜ有限な時間を使ってまで起業したいのか、そしてこれまでのキャリアや選択がどのようにこの結論に至ったのかを、ぜひ一度振り返ってみると良いと思います」

吉元裕樹氏

Sotas株式会社 代表取締役 吉元裕樹氏

まとめ

3名のお話からは、ビジネスを始めた自身の強い想いは見失わず、同時にマーケットの大きさや事業拡大の現実的な計画をいかに綿密に作れるかが資金調達やその先のさらなる事業展開に欠かせないということがわかりました。

次回は、環境やデザイン分野で活躍する専門家によるアカデミック集中講義です。参加者は、サーキュラーエコノミーとプロダクトデザインをテーマにインプットを進め、事業拡大やDemo Dayに向けて準備を進めます。各参加者のブラッシュアップに期待です!

講義の様子

講義の様子