「CIRCULAR STARTUP TOKYO」は、サーキュラーエコノミー領域に特化したスタートアップ企業の創業を支援するインキュベーションプログラムです。参加者は、循環型経済に関する多様な講義や専門家からのメンタリング、中間・最終発表などを通して、持続可能なビジネスモデルの構築や成長を試み、最終的には資金調達や社会的インパクトの創出を目指します。
2024年11月29日には、プログラムの一環であるサーキュラービジネスデザイン講義の第2回が行われました。今回のテーマは「サーキュラーエコノミーとビジネスデザイン」。登壇者は、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事/グリーンイノベーション理事・共同代表/株式会社ECOMMITのCSOを務める坂野晶氏、傘のシェアリングサービス「アイカサ」を提供する株式会社Nature Innovation Group代表取締役の丸川照司氏です。
前半では坂野氏より、株式会社ECOMMITのロジックモデルを用い、問題を解決しようとして新たな問題を生み出してしまうというジレンマを回避するためのヒントが話されました。
後半では丸川氏より、アイカサのビジネスモデルを事例に、環境負荷を低減しながら経済性も担保するビジネスモデルのあり方が話されました。
本記事では、その一部を抜粋してレポートします。
※サーキュラービジネスデザイン講義について
サーキュラービジネスデザイン講義は全5回の構成となっており、初回は視点をズームアウトしたうえでシステムデザインについて学び、段階的にビジネスデザイン、サービスデザイン、プロダクトデザインと、徐々に視点をズームインさせていきながら、サーキュラービジネスの構築プロセスを掘り下げていきます。
問題の解決策が新たな問題を生み出す?ソーシャルベンチャーの落とし穴を回避するには
徳島県上勝町のような自治体のゼロ・ウェイストを支援するゼロ・ウェイスト・ジャパン(Zero Waste Japan)、人材を育てるグリーンイノベーターアカデミー(Green Innovator Academy)、そして資源循環のインフラを作ることを目指す株式会社ECOMMITのCSOという3つの役割をもつ坂野氏。上勝町では、80%以上のリサイクル率を実現。グリーンイノベーターアカデミーではそうしたことができる人材育成を行っています。
一方ECOMMITでは、全国規模での資源循環インフラ構築を進めています。特に、衣類をはじめとする不要品の回収・再流通プラットフォーム「PASSTO(パスト)」を通じて、より多くの人々が手軽にものを循環させることができる仕組みを展開しています。
坂野氏「ゼロ・ウェイスト・ジャパンは一つの地域に深く入り込み、その地域でできることを多く試行錯誤しています。それは、一つの地域で100のことを試すような方法です。しかし、それには時間がかかります。
一方、ECOMMITの展開するサービスは地域にとっては一つの解決策でしかないかもしれませんが、同時に100の地域で実現可能なソリューションでもあります。これは皆さんがチャレンジされるビジネスの可能性と共通していると思います」

坂野氏のプレゼン資料より
上記のようにさまざまな角度から資源循環に取り組んできた坂野氏は、ソーシャルベンチャーがよく陥る“落とし穴”があると言います。それが、問題を解決しようとして新しい問題を生み出すことです。それを回避するために有効なのが、ロジックモデルで整理することです。
例えばECOMMITの場合は、ビジョンやターゲットとなるいくつかの指標に基づいて、自社の事業領域を以下のようなロジックモデルで整理しています。モデルの右端には「地球1個分の資源で豊かに暮らせる社会を目指す」というECOMMITのビジョンを、左端には同社が現在行っている事業が配置されています。そして、その間のステップを可視化し、どのように繋がっていくのかが示されています。

坂野氏のプレゼン資料より
現在、色を濃く塗っている部分は既に取り組みを始めている領域であり、白い部分は必要だと認識しているものの、まだ実行に移せていない領域だと言います。このように整理すると、本来は必要だけれどもまだできていない部分に対して、適切な行動に出ることができます。例えばファッション領域においては、ジャパンサステナブルファッションアライアンスに加盟し、他のアパレルやファッション業界の関係者と共に政策提言に力を入れています。
坂野氏「社内でも新規事業に関する提案があった際にこのロジックに照らし合わせて、その提案がインパクトに影響するかどうかを考えることができます。逆に、優先度が高くない提案や、方向性がずれている提案についても判断するための指針となります。ですから、このような整理を進めることは非常におすすめです」
加えて、同社ではこのモデルに基づいた事業を通して本当に新しい問題を引き起こしていないかを確認するために、ユーザー調査も行いました。身近な資源循環のインフラが整ったことで、回収してくれる場所があり、洋服を出すことで罪悪感が軽減されるという意識の変化が生まれ、これにより、『もっと買っても良いのではないか』という気持ちが生まれる可能性もあるからです。
実際に、回収ボックスを継続的に利用した結果、考え方にどのような変化があったかを尋ねたところ、最も多かったのは「捨てる以外の選択肢を考えるようになった」という意見でした。次に多かったのは「無駄に物を買わないようになった」というもの。新品を買っていた人たちが普段の買い物の前に考えるようになったという意見が得られました。

坂野氏のプレゼン資料より
坂野氏「通常、環境に関する活動を行う際には意識の変容が必要だと言われますが、逆に行動を続けることで意識が変わることもあるのだということがわかりました。行動を積み重ねることで何かに気づいたり、別の選択肢を考えたりすることができるということです。行動変容を促す過程で意識にアプローチすることが可能であると考えています」

坂野氏
サーキュラービジネスで経済性を担保する。代替手段に打ち勝つ戦略とは?
続く丸川氏は、自身が展開するサービスである「アイカサ」を事例として詳しく紹介し、環境負荷低減と経済性を両立するビジネスモデル構築のヒントを参加者に与えました。
アイカサは、スマホアプリで簡単に傘を借りられる、傘のシェアリングサービスです。ビニール傘は、国内で年間8,000万本消費され、その多くが数回の使用で廃棄されます。こうした現状を課題と捉え、繰り返し使える傘をシェアリングモデルで提供することで、生活者の急な雨の日に傘がない、雨の日も手ぶらで快適に過ごしたい、といった課題や需要にアプローチするのがアイカサです。
駅や商業施設を主なシェアリングスポットとし、2025年現在の設置箇所は全国で1,700か所と、首都圏を中心に急速にサービスを拡大しています。提供する傘はオリジナルのものを新しく生産していますが、布はリサイクル材を使う、修理しやすい構造にするなど工夫し、壊れたら自社で修理し、繰り返し使い続けています。

丸川氏プレゼン資料より
丸川氏は、アイカサのサービス構築において重視しているのは、既存の代替手段にどう打ち勝つかという点だと言います。その要素のひとつが、サービスの提供価格です。
丸川氏「ビル・ゲイツ氏が数年前に書いた本に、『グリーンプレミアム』という言葉があります。これはエコな選択肢を選んだ際に、既存の燃料と比べて価格が高いことを指します。この価格がゼロになるか安くならない限り、シェアは変わりにくいと書かれています。
代替手段に打ち勝つためには、このグリーンプレミアムを逆転させる、つまりエコな選択肢の方が安い、またはメリットがあるという状況を作る必要があると考えています。例えば、太陽光発電は1キロワット当たり14円程度と、従来の電力よりも安くなってきたからこそ広がってきたと言えます」
アイカサの1回の利用料金は140円(1日で返却した場合)。コンビニエンスストアで販売されている一般的なビニール傘よりも安価です。日数を重ねるごとに料金は上がっていきますが、こまめに返すのが手間だという人のために、月額280円で借り放題というプランも提供しています。

丸川氏プレゼン資料より
そして、こうした価格を実現できている背景には、傘1本あたりの粗利率を高める事業運営があると言います。
丸川氏「小売りのビニール傘の粗利は大体50%程度です。ビニール傘と比べると、アイカサの仕入れ価格はロットが少ないため、少し割高になります。ただし、先ほどお話ししたように5年間で500回使われると仮定すると、平均単価は200円程度になります。これを掛け算すると、10万円になります。1本の傘が5年間フル稼働すれば、10万円の売り上げを作ることができるのです。
アイカサのサービス展開にはアプリの維持、傘スタンドのメンテナンス、オペレーションコストなども入ってきますが、それを加味せず傘だけで見た場合、粗利率は90%から95%程度の次元を作ることが可能です。これを実現するには一定の使用量が必要ですが、それでも『傘は儲からなそう』というイメージを覆すような数字だと考えています」

丸川氏
さらに丸川氏は、サーキュラーエコノミー型のビジネスを行う際に重要なポイントとして、資源効率を高めるという点が重要だと強調します。アイカサではこの点もクリアしています。
丸川氏「アイカサ100万本が110日程度利用されることで年間8,000万本のビニール傘の消費をカバーできるということです。つまり、資源効率に80倍の違いがあるということです。
さらに、アイカサの傘は修理することを前提に5年以上使うことができます。500万本を5年間使えるので、5年間分の8,000万本の消費量を支えることができるということになります。そうなると、資源効率は400倍という計算になります。
第4次循環型社会形成基本方針(環境省)にも、重要なKPIとして『資源当たりの生産性』が入っています。ですから、この点はしっかりと計算していくことが求められると思います」

丸川氏プレゼン資料より
このほか、ITを活用してオペレーションコストを下げる点、メディアへの露出を営業に活用しサービスの拡大を図っている点など、サーキュラーエコノミー型のビジネスモデル構築において有効なヒントが多数話されました。
まとめ
今回の講義では、循環型サービスにおいても、価格・利便性・体験価値といった一般的な競争要素が依然として重要であること、環境価値だけでなく経済合理性とユーザー視点を両立させることが、サーキュラービジネスを成功させるために不可欠だということがよくわかりました。
次回の講義では、「サーキュラーエコノミーとサービスデザイン」をテーマに、より具体的な事例を交えながら、事業計画のブラッシュアップを進めていきます。参加者がどのようなアイデアを形にしていくのか、今後の展開に注目です!